バル研究所には建物がいくつかに分かれており、2人が入ったこの本館のエーテルランプの多くが壊されている。
わずかな外明かり、そして壊れたエーテルランプの残骸からかすかに青緑色の光りが濁っていおり、中は薄暗くとも何がどこにあるのか視野はかろうじて確保できる状態であった。
中に入った大柄な男と赤髪の少年の2人は言葉を交わす事もなく開けたエントランスの柱に飛び込み、背を当て慎重に……ゆっくりと中の気配を探るように警戒する。
通信でカウント300と時間制限の中、焦らず冷静に見えない敵に警戒する辺りが彼らの独立特殊部隊としての能力の高さが伺える。
「敵の気配はないな」
警戒はしつつも目先の危険は無い事を察知した2人は、柱から姿を現しながら話す。
「だが警戒を怠るな。どこに敵が潜んでいるかわからん。注意していけアルフ」
赤髪の少年は小さくうなずいた。
隊長と呼ばれた大柄な男は、少年の事をコードの"ブラック4"ではなく本名の"アルフ"と呼んだ。
襲撃ミッション中にもかかわらず少年兵を気にかけながら任務を遂行しているのだ。
それは一見、大柄な男の人情深さにように思えるかもしれない。
だがそれは彼の本質ではない。
オドン帝国独立第四特殊部隊 通称フラッグ隊 ジン=ダグラス
ジンは帝国でもトップクラスの軍人であり、その戦闘能力の高さはエキスパートの一言。
冷静沈着。かつ徹底的な合理主義。
その戦闘能力と戦術指揮の高さは広いセルティア大陸の各国にその名声はとどろいている。
現在所属はフラッグ隊、コードはブラック1。
そして赤髪の少年兵の名はアルフレッド=ホークマン
少年兵の年齢に見合わない落ち着ついた様はこのジン=ダグラスの指揮の元である事。
またそのジン=ダグラスというエキスパートに師事してきたという要因が大きいのかもしれない。
「よし、では行くぞ」
ジンの言葉と同時にふたりは動き出しゆっくりと明暗するかのように画面が動く──
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そこには立ち止まったかのような赤髪の少年兵アルフ。
絵が変わらないまま疾走感のある音楽だけが流れている。
そう、これは小説ではない。
架空のRPGなのだ。
そう、ロールプレイングゲームというのは誰かが操作をしないと、主人公のアルフという者が動く事もなければ物語が進む事もない。
これはあくまで架空のRPGなのである。
物語のプロローグが終わり、ここからゲームとして始まるのである。
そしてキャラクターの操作が行えるようになり恐らく万人がする行動の初手は『メニュー画面の確認』
パーティの中にはアルフ、ジンという2人のキャラがいた。
アルフのレベルは1、そしてジンのレベルは20。
ジン=ダグラスのステータスの高さから彼がゲストキャラクターというのが一目でわかり、ジンというキャラが途中離脱をする予測を多くのプレイヤーが察するだろう。
そしてひととおりメニューコマンドの一覧を見た後──
まずはスキルの有無の確認から始まる。
なぜ多くの人間がこのスキル確認の行動から始まるのか?
理由は恐らく、多くのプレイヤー達はここでどういうゲームシステムなのかの予測を立てるからである。
スキルの項目にはアーツとエーテルそしてパッシヴという項目が見え、それぞれのキャラのスキルを確認し、キャラごとにどういう立ち回りのキャラクターかを察する。
ステータス、装備品、所持アイテムなど全体のコマンドを見終えメニューを閉じふと近くを見ると、近くに青く光る魔法陣が見える。
アルフが動き、まずは青い魔法陣に触れると青く優しい光がアルフを包み込んだ。
恐らく視覚と聴覚で多くの人たちが認識したはず──この青い魔法陣は回復ポイントだと。
これらの確認を終え、動作確認も兼ねて散策が始まる。
棚などにアイテムはあるのかないのかプレイヤーに厳しいのか甘いのか、さらにはゲームというのは都合のいいものであり、この時点ではまだゲームとしてはチュートリアル段階。
ブラック2が通信で言っていたカウント300の秒数などおかまいなしにプレイヤー達は散策し、アルフ達は【回復薬】と【50G】を手に入れるのである。
だが多くのプレイヤーは知らないだろう。
実際にカウント300秒以内に進める事で【力の実】が隠し報酬として後でもらえるという事を。
ゲームとしてのシャドウエッグは今始まったのだ──
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