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執筆者の写真SHADOW EGG

11話『旧サルゴン基地のうわさ7』


激しい戦いが繰り広げられる中、魔獣は上体から左右交互に触手ではたくように連続攻撃をしかけ、さらに3撃目に再び触手で叩きつけるように少年を狙った──

敵の視点を誘導するかのようにアルフは他の2人より前で敵をひたすらけん制し、攻撃をさばく事に専念していた。


バックテップ──宙返り──伏せ──


3度にわたる触手攻撃を回避しながらも少年はほんの少しの隙に反撃に出ようと考えていた。

アルフが最後の攻撃をかわした瞬間、伏せである手首とつま先を地面につけた4足歩行の体勢から地面を蹴るように一気にアルフは常人ならざる初期加速から走りだす──


(早い──)


バックアップとしてミハエルがアルフが反撃に出る所を冷静に状況観察をしていた。

アルフはまるで短刀を持つ手を置いてけぼりにするかのような前のめりで全力で走る。

速さを重視するあまりバランスをやや崩しながらも魔獣に飛び込み、即座に相手の触手を蹴る事で方向を変え、その反動で大きく回りながら短刀で胴体に一撃を斬り込んだ。

巨体な魔獣の体に2刀の浅い傷を2回いれるよりも、回転の反動でなるべく傷の深い一撃を入れた方が効果的だとアルフは考えたからだ。

しかし魔獣はひるむ事なかった。


(まだ軽いのか……!)


魔獣はモノともせず、下半身の尾をしならせ飛び上がった。

アルフは急いで魔獣を蹴って地面にバランスを崩しながらも着地したがアルフの上空に大きな影がうっすらと映る──


「アルフさん!」


「避けろぉぉ!」


アルフがその声と同時に上を見上げると、大きな尾で叩きつけようとする魔獣が自身を狙っている。

ミハエルとコリンズのスピードと距離ではコリンズを助けた時のように蹴ってアルフを助ける事は不可能。

雷天でもあの動作は止まらない事はミハエルも直感で理解してしまっていた。


2人にはどうすることも出来ないまま、魔獣の巨体がアルフを押しつぶすように地面に叩きつけた──


土煙が広がりミハエル達の視界がかすむ。

コリンズは絶望の中、ただただ、ぼうぜんとアルフがつぶされるのを見ているしかなかった。


「はは……ウソだろ……あんなに強くても簡単に……」


黄土色の土煙の中に、白い煙が混じっていた。

アルフの死を目前にしてもミハエルは自身でも不思議と思えるほどに冷静にその煙について考えた。


「白い煙……?……水(ミスト)……拡散(ディヒ)……?」


視界の悪い中ミハエルは必死に何かを探しだすように辺りを見渡した。

そこで何かに気づくミハエルは棒状の武器を回すように円を描き、エーテルの光が放たれる。


「まったく心臓に悪い……!赤の印(ロート)!」


ミハエルを中心に、ミハエルにしか見えない黄色い波動が円状に伝達して広がった。

上空を見るミハエルの瞳の先にはほんの小さく赤髪の少年がうつっていた。


(力が……!?ミハエルさんか)


空から落ちて来るアルフの身体には黄色い光がうっすらと浮かび、落下する重力を利用し更にミハエルの魔法で強化された攻撃が魔獣の背中に届く──

直後、魔獣の痛々しい低音の聞いた叫びが旧サルゴン基地にとどろくように響きわたった。


アルフとミハエルの連携もあり、渾身の一撃で魔獣に傷を負わせたが、それでも致命傷にはなりえなかった。

間髪入れず、アルフは追撃の準備をするために魔獣を蹴る反動で飛びながら距離を取る。


宙返りで後ろに滑りこみながら着地すると同時にヒザを曲げ重心の低い姿勢をとり、アルフは両手の指を開き短刀を地面に落とした。

かざした右手──左手を添えるように──右手に赤い光が収束する。

ミハエルも何かを察したように武器を掲げ、棒の先へと黄色い光が収束する──


「ファイアランス!」


「雷天!」


2つのエーテル魔法が魔獣に放たれた瞬間、轟音が鳴る。

天から雷が降り落ち、同時に火球が魔獣に命中する。



(ハハ……すげぇ……コイツらすげぇな……これがフラッグ隊……)


コリンズは震えていた。


1度目は恐怖。


2度目は絶望。


そして3度目。この震えはアルフ達の戦い方に魅せられた憧れのような感情がそうさせたのだろう。

しかも本来フラッグは対人部隊であり魔獣戦闘には慣れていない。

にも関わらずこの二人の冷静さにコリンズの心の隅にはおそらく悔しさの感情も少なからず含まれていた。


魔獣は焼けるような傷を負ったが、それでもまだ致命的にはほど遠く、魔獣は再びアルフ達を警戒するかのように建物の2階の壁に張り付いた。

アルフは2人のところに戻り、再び3人で陣を組んだ。


「ハァ……ハァ……ダメージは与えてる……けど」


「ええ……こんなものでは消えてはくれなさそうです」


「すげぇなあんたら……にしてもアルフ君、さっきはマジでヒヤヒヤしたぞ。あれは君のアーツか?」


「ごめんなさい、キリングエッジっていう僕のカウンター技です」


「なるほど……水(ミスト)と拡散(ディヒ)で自身と同じ霧状の結合体を作り出し、敵を誘い自身は死角からその隙に攻撃。

視界の悪い状態でのミッションの多い対人部隊ならではの技術ですね」


(……キリングエッジの構造を一度見ただけでで的確に分析するなんて……それにさっきの援護のタイミングの的確さ。

ミハエルさん……やっぱりこの人ただ者じゃない)


「さて、ほんの少しだけ有利な振りだしに戻ったようです……が、まだ見逃してはくれなさそうですね」


「援軍はまだ来ないのか?ずいぶん戦ってる気がするぞ」


「……」


(……確かに遅い気がする。隊長が捕まらない?いやミハエルさんがここにいるという事は情報共有はきっとされて……)


「アルフさん!」


ハッと気づくように魔獣を見ると、魔獣が飛び込む体勢をとっていた。


「みんな避けて!」


まるで壁から弾丸が発射されるかのように魔獣は壁からアルフ達に向かって突進を仕掛けた。

アルフ達はかろうじて横に飛ぶように避けた。が、問題は逃げた先だった。


アルフが左に避け、ミハエルとコリンズは右に避けた。

間に魔獣がいる事で結果的に2方向に分断されてしまったのだ。

この狡猾なる魔獣が狙う先は当然──


「まずい……!ミハエルさん!」



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